AI導入 ・ 2026.10.30

AIのルールがあるのに守られない理由と、点検する所

AIのルールがあるのに守られない理由と、点検する所

AIの使い方の決まりは、社員が迷ったその場で使えて、はじめて決まりとして働きます。紙に書いてあっても、迷ったときに開かれなければ、無いのと同じです。

決まりに反した使い方が見つかると、社員の意識を疑いたくなるかもしれません。意識に働きかけることも大事ですが、その前に、決まりの形を見直したいと考えています。この記事では、今ある決まりが迷ったその場で使える形かどうかを、5つの所で点検する方法を書きます。

結論:決まりは「迷ったその場で使えるか」で見る

社員がAIを使うとき、決まりのどこに当たるのか迷う瞬間があります。その場で答えが出るかどうかが、決まりが働くかどうかの分かれ目です。点検する所は、理由・聞く相手・置き場所・止め方・起きたあとの道の5つです。特に取り返しのつかない所は少数に絞り、そこだけは人の注意でなく仕組みで止めることが重要だと考えています。

「禁止」と決まっていた大きな会社でも、起きた

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社が2026年10月23日に公表した「お詫びとお知らせ」では、人事情報システムの導入プロジェクトで、プロジェクトのメンバーが、会社が利用を禁止している外部の生成AIサービスに、個人情報を含むデータをアップロードしたと報告しています。対象は、従業員・元従業員とその家族の約33.4万人分です。同社は「外部からの不正な操作によるものではなく、プロジェクトメンバーによるルール違反」と説明しています。再発防止策として、ルールと生成AIの利用管理の見直し、関係者への教育・啓発の強化を挙げています。大きな会社で、利用の禁止がはっきり決まっていても、起きたということです。

株式会社テスティーが2026年7月27日に公表した調査は、2026年6月に社会人793人に、勤務先でのAI利用ルールの整備状況を聞いたものです。「整備されている」と答えた人は14.1%でした。最も多かった回答は「わからない」で、37.7%です。若い人が多いアプリでの調査であること、また「わからない」には決まりがまだ無い職場も含まれることには、注意が要ります。発行元は「ルールが社内で整備されていたとしても従業員まで十分に周知・浸透されていないケースも含まれていると考えられる」と見ています。

フリー株式会社が2026年5月25日に公表した調査は、企業の情報システム部門の担当者633人に、日々の仕事の中での実感を聞いたものです。2026年に入り、シャドーAI(会社が認めていないAIを従業員が個人で使うこと)の利用が増えていると感じると答えた担当者は66.0%でした。増えたと感じる理由として挙がった回答の最多は「スマートフォンで、AIを活用する従業員が増えたため」で214人でした。ほかに「拡張機能などにより、意識せずにAIを利用するケースが増えたため」が175人いました。本人がAIを使っていると気づかない場面があるなら、決まりを読んで覚えていても、それだけでは防ぎきれない所があると考えています。

決まりに何を入れるかと、中小企業での整備の状況は、AI研修をしたのに使われない理由と、やり直す前の順番で扱っているので、ここでは深追いしません。

紙だけの決まりと、迷ったその場で使える決まり

社員が「これをAIに入れてよいか」と迷った瞬間を思い浮かべてみてください。その場で決まりが目に入らず、その日のうちに聞ける相手もいなければ、社員は自分で判断してAIを使うしかありません。決まりに反した使い方は、ここで起きやすいと考えています。

「これをAIに入れてよいか」と迷ったとき 社員が「これをAIに入れてよいか」と迷う その場で、決まりが目に入る? (表の3. 置き場所) はい 決まりのとおりにする いいえ(どこにあるか分からない・開かない) その日のうちに聞ける相手がいる? (表の2. 聞く相手) はい 聞いて決める いいえ 自分で判断して入れる 反した使い方は、ここで起きやすい
点検する所 紙だけの決まり 迷ったその場で使える決まり
1. 理由 「お客様の情報は入力禁止」とだけ書いてある なぜ入れてはいけないか(入れた情報が会社の外のサービスに渡ること)が1行ある
2. 聞く相手 「不明な点は担当部署へ」とだけ書いてある 誰に聞けばその日のうちに答えが出るかが、名前で書いてある
3. 置き場所 入社のときに1回配った・共有フォルダの奥にある AIを使う場面で目に入る所にある
4. 止め方 すべて社員の注意に任せている 取り返しのつかない所だけは、注意でなく仕組みで止めている
5. 起きたあと 反した人を叱って終わる 止まったこと・やってしまったことを報告する道があり、報告した人を責めない

1. 理由

禁止だけが書いてある決まりは、社員が迷ったときに「これは当てはまるのか」が判断しにくいものです。例えば「お客様の情報は入力禁止」とだけある場合、それがなぜ禁止なのかが分からなければ、グレーなケースで社員は迷ってしまいます。禁止の理由が1行でもあれば、社員は書いていない場面でも同じ考えで判断しやすくなります。

2. 聞く相手

「不明な点は担当部署へ」という決まりも、社員にとっては具体的な解決策になりにくいものです。担当部署がどこか、誰に聞けばその日のうちに答えが出るのかがはっきりしないと、結局は自分で判断することになります。誰に聞けば良いかが名前で書いてあれば、社員は安心して質問できます。同じ質問が2回来たら、その答えを決まりに書き足します。

3. 置き場所

入社のときに一度だけ読んだ決まりや、共有フォルダの深い階層にある決まりは、社員がAIを使う瞬間には思い出されにくいものです。決まりは、AIを使う場面で目に入る所に置いておきたいものです。どこに置けるかは、社内でAIをどう使っているかによって変わります。

点検する所の4と5は次の2つの節で扱います。

取り返しのつかない所だけ、仕組みで止める

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)」(2026年3月31日公表)は、ルールの策定・運用を、ルールを「整備する」段と、ルールがしっかり遂行されるよう「周知・運用する」段に分けて置いています。また、AIを安全に使う仕組みは、セキュリティ対策などの技術の面と、社内ルール・教育体制・責任者の配置といった組織の面の両方で作るもの、としています。これは事業者向けの手引きの案であり、従う義務を定めたものではありません。

決まりを考える際に、間違えたあと直せるかどうかで行動を分けてみることをおすすめします。直せる行動、例えば公開済みの文の言い回しを整えさせることや、お客様・社員の情報を含まない社内向けメモの下書きを作らせることは、方針に書いて社員の判断に任せられます。

一方、取り返しがつかない行動は、仕組みで止めることを検討したい所です。例えば、お客様や社員の個人情報を、会社の外のAIサービスに入れることや、AIが作った文を確かめずに社外へ送ることは、一度起きると元に戻せません。

「間違えたあと、直せるか」で分ける 直せる 取り返しがつかない 方針に書いて任せる ・公開済みの文の言い回しを 整えさせる ・お客様・社員の情報を含まない 社内向けメモの下書きを作らせる 仕組みで止める候補 ・お客様や社員の個人情報を 会社の外のAIサービスに入れる ・AIが作った文を確かめずに 社外へ送る 止める所は、少数に絞る

ただし、全部を仕組みで止めようとはしません。止める所を増やすほど、社員は会社の外のやり方を探しやすくなると考えています。止める所は、本当の意味で取り返しがつかない所に絞ることが大切です。うちでは、AIに作業を任せるときの決まりも、方針に書いて任せるか、仕組みで止めるかを「間違えたあと直せるか」で分けています。仕組みの中身、つまりどのAIをどう設定するかは、使っているAIや社内の環境によって変わります。

止められたとき、やってしまったときの道を書いておく

社員がAIを使おうとして仕組みで止められた場合、「このやり方ではだめなのか」と判断し、別のやり方で同じことをしようとすることがあります。例えば、特定のAIツールで止められたから、別のAIツールを使うといった行動です。だから決まりには「止められたら、別のやり方で同じことをしない。何をしようとして、何に止められたかを伝える」まで書いておくことが重要だと考えています。

もし、社員が決まりに反してAIを使ってしまった場合、会社として報告の道を用意し、報告した人を責めない姿勢を示すことが大切です。報告した人と、隠した人を同じに扱わないようにするべきです。freeeの調査では、シャドーAIを「完全に可視化できている」と答えた担当者は13.6%でした。報告すると責められる職場では、次からは報告されにくくなり、会社から見えなくなると考えています。

社員を責めないことは、不問にすることとは違います。もし個人情報が含まれていた場合は、法律にもとづく報告や本人への連絡が必要になる場合があります。パナソニック オペレーショナルエクセレンスも、2026年9月29日に個人情報保護委員会へ報告したと公表しています。社内だけで判断せず、専門家に確かめることも必要になるでしょう。

今日できること:自社の決まりを開いて、表の5行に印をつける

今すぐにでも始められることがあります。

  1. 自社のAIの使い方の決まりを開く
  2. この記事の表の5行のうち、「紙だけの決まり」に当たる行に印をつける
  3. 直すのは1つだけにする。4(止め方)に印があれば、そこから直す

社内の情報の扱いがいまどの状態にあるかは、AI導入診断(無料・12問・約5分)で確かめられます。診断では、安心(情報の扱い)・業務・データ・人と定着の4つの視点で見ます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 決まりを一から作り直したほうがいいですか?

A1. いま決まりがある場合は、この記事の表の5行で点検することをおすすめします。作り直す前に、まず現状の決まりが迷ったその場で使える形になっているかを見直しましょう。決まりそのものがまだ無い会社は、何を入れるかから決めることになります。

Q2. 仕組みで止めるには、費用がかかりますか?

A2. 仕組みで止める方法は、使っているAIや社内の環境によって大きく変わります。そのため、共通の金額を提示することはできません。まずは、本当に取り返しのつかない所だけを少数に絞り、どこを仕組みで止めるかを決めることが先だと考えています。

Q3. 反した社員を処分しないと、示しがつかないのでは?

A3. 報告した人を責めないことは、問題があったこと自体を不問にすることとは違います。報告した人と、隠した人を同じに扱わないことが大切です。処分については、社内の規程と専門家の意見を確かめるべきだと考えています。

Q4. 小さな会社で、聞く相手が社長しかいない場合は?

A4. 聞く相手が社長しかいない場合でも、社長がその日のうちに答えることで、社員は迷いを解消しやすくなります。同じ質問が2回来たら、その答えを決まりに書き足します。そうすると、同じ質問は社長まで上がってきにくくなります。判断の基準を社員に渡す考え方は、社長に判断が戻ってくる理由と、任せる前に数えることで扱っています。

Q5. 社員のスマホのAIまで止められますか?

A5. 個人のスマートフォンで社員が利用するAIは、会社の仕組みだけで止めることは難しいと考えています。止めることよりも、会社で使うAIを用意し、そちらを使うほうが社員にとって楽な状態にすることをおすすめします。使う環境をそろえる話は、AI研修をしたのに使われない理由と、やり直す前の順番で扱っています。

参考(一次情報)

関連するコラム

AIを入れたいが、
どこから手をつければいいのか分からない。

12の質問で、いまの状態と、どこから始めるとよいかを確かめます。

AI導入診断を受ける

無料・その場で結果が出ます