AI導入 ・ 2026.10.29

AIを入れても忙しいままの理由と、仕事の分け方

AIを入れても忙しいままの理由と、仕事の分け方

社長がAIを入れるのは、楽をするためではありません。会社の先のことを考える時間をつくり、一人ひとりが担える仕事を広げるためです。ところが、AIを入れても社長や管理職の方の忙しさが変わらない、と感じることはありませんか。会議の議事録も、お客様へのメールの下書きも、AIを使えばあっという間にできあがります。しかし、その結果が「これで合っていますか?」という言葉とともに、社長や管理職の方の机に届く状況は、なかなか減らないかもしれません。

パーソル総合研究所が2026年2月3日に公表した調査では、生成AIを仕事で使っている正規雇用の社員のうち、業務時間が実際に減ったと答えた人は25.4%でした。会社の規模を問わずに聞いた調査で、中小企業に限った数字ではありません。AIの導入が進む中で、なぜこのような状況が生まれるのでしょうか。この記事では、AIが速くした作業のあとに残る「判断」と「AIの答えを確かめること」に注目し、その解決策を考えます。

結論:AIが速くした作業のあとに、「判断」と「確かめる」が残る

一つの仕事が会社の中で動くとき、そこにはいくつかの動きが生まれます。

まず、①作業です。文字を起こしたり、下書きを作ったり、数字を集めたりといった作業は、AIを使うことで速くなります。

次に、②判断です。AIが出した選択肢の中からどれを残し、どれを最終的な形として送るかといった判断は、人に残ります。

そして、③AIの答えが合っているかを確かめることです。これも判断の一つであり、AIの出力が本当に正しいのか、意図に沿っているのかを最終的に見極めるのも人の役割です。

AIは判断の材料(選択肢や比べた表)までは出せます。境目は、決めて責任を持つのが誰か、です。

1つの仕事の中で起きていること 例:会議の議事録 AIに渡す作業 文字を起こす 決まったことを抜き出す AIで速くなる 人が持つ判断 何を決定事項に残すか 誰に送るか 人に残る 誰が確かめるか AIの答えが 合っているか これも判断。人に残る 確かめる人が社長・管理職だと、 上に届く「確かめてください」が増える

もし、この「確かめる」役割が社長や管理職の方に集中していると、どうなるでしょうか。社員がAIを使って作業を速くすればするほど、その結果を確かめてほしいという依頼が、上の人に集まることになります。これは、社長や管理職の方の時間が減ったのではなく、仕事が上に移っている、と考えています。

作業・判断・判断の基準の分け方そのものは、社長に判断が戻ってくる理由と、任せる前に数えることで扱っています。

作業は速くなっても、働く時間はほとんど減っていない

パーソル総合研究所が2026年2月3日に公表した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」では、AIの導入が実際に働く時間にどう影響しているかが見えてきます。この調査は、全国の就業者から選んだ正規雇用の社員3,000人に、2025年10月に聞いたものです。リードで触れた25.4%は、そのうち生成AIを使っている1,500人の中での割合です。

調査の結果、生成AIを使った作業(タスク)ごとに見ると、その作業にかかる時間は平均で16.7%短くなっていました。これは週に換算すると26.4分の短縮です。しかし、この効果を週40時間の働き方全体に直すと、約1.1%の削減にとどまる、と報告書は書いています。

では、浮いた時間はどこへ行ったのでしょうか。業務時間が減ったと答えた381人にその使い道を聞くと、浮いた時間の61.2%は仕事に充てられていました。さらに、浮いた時間を仕事に充てた342人に、具体的にどのような仕事に充てたかを尋ねると(複数回答)、75.4%が「日常の業務」を挙げました。

この調査が数えたのは、AIを使った本人の時間です。確かめる仕事や、社長の時間は数えていません。上の人に集まる、というのは、ここからの私たちの見方です。

作業がどれだけ速くなっても、その先の判断と、AIの答えを確かめる仕事の置き場所が変わらなければ、結局、上の人の机の上に仕事がとどまってしまう、と考えています。効率化そのものは重要です。速くなった作業が利益にどう効くかは、生成AIが「仕事に使えない」と感じたら、先に渡す3つのことで扱っています。

確かめる役が上に集まると、社長の時間は空かない

誰が確かめるかを会社として決める話は、AI研修をしたのに使われない理由と、やり直す前の順番で扱いました。ここではその先の、確かめる人が上に集まると何が起きるか、です。

生成AIが「仕事に使えない」と感じたら、先に渡す3つのことは、AIに渡す前提が人によって違う話でした。こちらは、どこまでAIに渡すかの線が人によって違う話です。

AIを導入すると、まず社員がAIを使って書類の下書きやメールの文面を作成します。その結果、「これで合っていますか?」という確認が、上司や社長に届くことになります。もし、この「確かめる」役割が上の人だけに集まっていると、AIを使う社員が増えれば増えるほど、上の人のもとに届く確認の量も増え、結果として上の人の仕事が詰まってしまいます。

AIを使う人が増えると、社長に届く「確かめてください」 確かめる人が社長だけのとき(考え方を示した図。調査の数字ではありません) 社長 確かめて AIを使う人 1人 社長 確かめて 確かめて 確かめて AIを使う人 3人 社長 確かめて 確かめて 確かめて 確かめて 確かめて AIを使う人 5人 使う人が増えるほど、上が詰まる

実際に、パーソル総合研究所の別の調査(2026年7月22日公表)では、正規雇用の社員3,300人を対象とした結果、生成AIの利用率は、2025年10月の41.9%から2026年5月には54.3%に上がっていました。このようにAIを使う人が増えるほど、確かめる仕事も増えると考えています。

また、AIにどこまで任せるか、という「線引き」は、人によって大きく異なることが、チェンジホールディングスが2026年9月4日に公表した「人と AI の『線引き』に関する意識調査」でも示されています。この調査は、2026年7月に20〜59歳の会社員・役員1,104名にインターネットで聞いたもので、AIにどの業務を主体的に任せてよいか、という「どう思うか」を聞いた意識調査であり、実際に任せている割合ではありません。

13の業務全体で見ると、AIが主体でよいという回答が一番多かったのは「議事録作成」の44.7%、一番少なかったのは「課題の整理」の25.3%でした。

さらに「最終的な意思決定」について年代別に見ると、AIが主体でよいと答えた人は、20代で59.1%だったのに対し、50代では12.1%と、大きな開きが見られました。

このように、AIに渡す線を一人ひとりに任せると、同じ会社の中でも線の位置が人によって違うことがわかります。線がそろっていないと、確かめる側は社員が作ったものを結局全部見るしかないため、社長や管理職の方の時間は空かないことになります。

毎週の仕事を1つずつ、3つに分けて書き出す

では、どうすればこの状況を改善できるでしょうか。第一歩として、自分自身の、または社員の一人の、毎週くり返している仕事を書き出し、それを「AIに渡す作業」「人が持つ判断」「誰が何を見て確かめるか」の3つに分けて整理することをおすすめします。

記録はしません。毎週くり返している仕事を、今日、思い出して書き出します。

戻ってきた判断を1週間記録して数えるやり方は社長に判断が戻ってくる理由と、任せる前に数えることで扱っています。こちらは、自分の仕事を先に分けておく表です。

AIに任せる・AIの下書きを人が確かめる・人がやる、と3つに分けるやり方はよく紹介されています。ここで足したいのは、誰が確かめるか、の列です。

毎週の仕事を、1つずつ3つに分ける 1 毎週くり返す仕事を 思い出して書き出す 2 作業・判断・ 誰が確かめるかに分ける 3 確かめる人が社長だけの 行に印をつける 印がついた行が、いま時間が詰まっている所

以下に、書き出しの例を示します。

仕事 AIに渡す作業 人が持つ判断 誰が確かめるか 何を見て確かめるか
会議の議事録 録音から文字を起こし、決まったことと宿題を抜き出す 何を決定事項として残すか・誰に送るか 会議を進めた人 決まったこと・期限・担当がそろっているか
見積書 過去の見積書をもとに、品目・数量・計算を入れた下書きを作る 値段を決める(社長に残る) 社長(いまは) 品目・数量・計算が合っているか(作った人に渡せる)
お客様からの問い合わせへの返信 過去の返信をもとに、返信の下書きを作る どこまで約束するか・お断りするか 返信する担当者 聞かれたことに全部答えているか・日付や名前が合っているか
月ごとの数字のまとめ 売上や件数を集めて表にし、先月との違いを書き出す 違いの理由をどう見るか・次に何をするか まとめた人 元の数字と表の数字が合っているか
毎朝の予定とやることのまとめ 予定・届いたメール・残っている仕事を1枚にまとめる 今日どれを先にやるか 本人 抜けている予定がないか

この表の「見積書」の行を見てみましょう。「何を見て確かめるか」にある「品目・数量・計算が合っているか」は、見積書を作った担当者自身でも確認できる項目です。一方で「値段を決める」という判断は、社長に残ります。この表の中で「誰が確かめるか」に社長や管理職の方しか入っていない行こそが、いま時間が詰まっている所を示しています。

パーソル総合研究所の調査(2026年7月22日公表)では、AIをよく使う職場で、『仕事の枠を示す』『裁量の範囲を示す』といった上司の関わり方が、成果と関係していました。書き出した表は、その枠と範囲を見える形にしたものだと考えています。

確かめる役は、作った人の近くに置く

社長に判断が戻ってくる理由と、任せる前に数えることで渡したのは、決めてよい範囲でした。ここで渡すのは、AIの答えのどこを見るか、です。

前の章で作成した表を使い、「誰が確かめるか」に社長や管理職の名前が入っている行に注目します。その行の「何を見て確かめるか」に書かれている内容を、できるだけ短い言葉にして、その仕事を作った人に渡します。例えば、見積書であれば「品目・数量・計算が合っているか」という点です。

これを担当者に渡すことで、作った人が自分でAIの出力の基本的な部分を確かめられるようになります。これにより、上に上がってくるのは、値段の決定やお客様への約束の範囲など、本当に判断が要るものだけになります。

「誰が見ても同じところを確かめられる」状態にすることが大切です。

どの仕事から、どこまでを渡すかは会社ごとに違いますが、このように役割を整理すると、社長や管理職の方の手元に、会社の先のことを考えたり、一人ひとりが担える仕事を広げたりするための時間が生まれやすくなります。

社内のどこから整えるとよいかは、AI導入診断(無料・12問・約5分)で確かめられます。診断では、安心(情報の扱い)・業務・データ・人と定着の4つの視点で見ます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 作った人に確かめさせると、間違いが増えませんか?

A1. 何を見ればよいかを具体的に短い言葉で渡し、確かめる基準をそろえることが重要です。基本的な確認は作った人が行い、判断が要るものや責任が伴う部分は、これまで通り上に報告・相談が上がってくるようにします。こうすると、何を見ればよいかがそろい、上に上がるのは判断が要るものになります。

Q2. 確かめる手間が増えるなら、AIを使わないほうが早くないですか?

A2. 生成AIを使うと、作業ごとの時間は平均で16.7%短くなっています。詰まっているのは、AIが出したものを最終的に「誰が、何を見て、確かめるか」という部分の置き場所です。まずは、この置き場所を見直すところから始めます。

Q3. 社員によってAIの使い方が違うのは問題ですか?

A3. 問題は、AIにどこまで渡すかの「線」がそろっていないことです。線が人によって違うと、確かめる側が結局全ての内容を見ることになり、確認作業が増えてしまいます。会社として決めておくことは、AI研修をしたのに使われない理由と、やり直す前の順番で扱っています。

Q4. 小さな会社で、確かめられる人が社長しかいない場合は?

A4. まず、毎週くり返している仕事を書き出し、「何を見て確かめるか」を明確にすることから始めましょう。見るものを短い言葉にして作った人に渡せば、社長の手元に残るのは判断だけになります。値段やお客様への約束のように、社長が持ち続ける判断は常に存在します。

Q5. どの仕事から書き出せばいいですか?

A5. 毎週くり返している仕事から書き出すのが効果的です。特に、AIを使って作業している社員がいて、その結果の確認が社長や管理職の方に集まっていると感じる仕事から始めるのがおすすめです。

参考(一次情報)

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