組織設計 ・ 2026.10.28

社長に判断が戻ってくる理由と、任せる前に数えること

社長に判断が戻ってくる理由と、任せる前に数えること

「社長、この件、どうしますか?」

週末や連休中、あるいは出張先で移動中の電車の中。時間や場所を選ばず、従業員や管理職から届く「判断を求める連絡」に、うんざりしている社長もいるのではないでしょうか。社員を増やして体制を強化したはずなのに、その連絡の数が減らないどころか、かえって増えたと感じることもあるかもしれません。

社長が判断から抜けるのは、自分の時間を増やして楽をするためではありません。現場の細かな判断から離れ、会社の未来や事業の大きな方向性をじっくりと考え、決める時間を作るためです。ところが、ネオキャリアが運営する「みんなの採用部」が、従業員100〜300名未満で採用業務の大部分を社内で行っている会社の経営者107名に調査したところ、「採用人数は増えても、現場の判断力や自律性は上がっていない」と感じることがある経営者は、74.8%に上ることがわかっています(ネオキャリア(みんなの採用部)調べ)。

では、任せたはずの判断は、なぜ社長の元に戻ってくるのでしょうか。

結論:判断が戻ってくるのは、「基準」を渡していないから

社員に仕事を任せるとき、その仕事は大きく3つに分けて考えられます。

1つ目。作業:手を動かしたり、情報を集めたりすることです。たとえば、資料を作る、データを入力する、お客様に商品を送る、といったことです。

2つ目。判断:いくつかの選択肢の中から、どちらにするかを決めることです。たとえば、資料をA案とB案のどちらでまとめるか、お客様からの問い合わせにどう答えるか、といったことです。

3つ目。判断の基準:どこまでなら自分で判断してよいのか、何を優先して決めるべきか、という判断の根っこになる考え方です。

任せる仕事の3つの層 1 作業 手を動かすこと(資料を作る・入力する・送る) 渡している 2 判断 どちらにするかを決めること 任せたつもり 3 判断の基準 どこまで自分で決めてよいか・何を優先するか 社長の頭の中 3つ目を渡すと「誰が見ても同じ判断ができる」状態に近づく

社長が社員に「判断を任せる(権限委譲する)」と言うとき、実際に渡しているのは作業までで、判断の基準は渡していないことがあります。本当に大切なのは、3つ目の「判断の基準」を渡すことです。

基準を渡さないまま「判断を任せる」と、社員は「決めること」を求められますが、「何を根拠に、どこまで決めてよいか」がわからない状態になります。すると、何か迷いが生じるたびに、「この件、どうしましょうか?」と社長に聞きに来るのが、社員から見れば正しい行動です。なぜなら、自分で判断してもしそれが間違っていたら、責任を問われるかもしれないからです。社長の頭の中にしかない判断の基準を社員が知ることはできません。そのため、確実な答えを求めて社長に確認しに行くのは、当然の行動と言えるでしょう。

目指したい状態は、「誰がやっても同じように回る」ということではありません。それは作業を渡すときに目指すことです。判断を任せる上で目指すのは、**「誰が見ても同じ判断ができる」**状態です。そのためには、社長が持っている判断の基準を、言葉にして社員に渡すことが何よりも重要です。

人を増やすだけでは、戻ってくる判断は減らない

「社員に任せたくても、そもそも人手が足りない」と感じる社長もいるかもしれません。日本商工会議所・東京商工会議所が全国の会員企業を対象に行った調査(2026年9月公表)では、人手が「不足している」と答えた会社は、従業員21〜100人の会社で67.7%、101〜300人の会社では71.4%に上ります(日本商工会議所・東京商工会議所調べ)。人手が足りないときに人を増やすのは、会社の活動を続ける上で必要なことです。

また、人手が「不足している」と答えた会社が取っている対策(複数回答)で最も多かったのは「採用活動の強化(非正規含む)」で75.7%でした(日本商工会議所・東京商工会議所調べ)。多くの会社が、採用に力を入れていることがわかります。

しかし、単に人を増やすだけでは、社長に戻ってくる判断は減らないかもしれません。ネオキャリア(みんなの採用部)の調査で、組織の力不足を感じる具体的な場面を聞いた質問(複数回答)では、3番目に多かったのが「現場での判断が遅く、都度上層部に確認が入る」(38.8%)でした(ネオキャリア(みんなの採用部)調べ)。

これは、人が増えても、その人が「何を、どこまで、どう判断すればよいか」という基準がなければ、迷うたびに確認が必要になることを示唆しています。増えた人たちそれぞれが社長に判断を求めるようになれば、かえって社長の元に戻ってくる判断の数が増えてしまう、という状況に陥りかねません。

人を増やすことは大切ですが、同時にその増えた社員が自分で判断できる「基準」とセットでなければ、社長の負担は減らないのです。

管理職がいる会社では、判断は管理職のところで止まりやすい

会社が大きくなり、社長が一人で全社員を見られる人数を超えると、社長と現場の間に管理職が入ります。この管理職がいる会社で、社長に判断が戻ってくる場合、その判断は管理職のところで一旦止まっていることがあります。

管理職に渡しているのが「人の管理」にとどまっていることがあります。たとえば、勤怠の確認、日々の指示、業務報告の集約、といったことです。「どこまで自分で決めてよいか」という判断の範囲が明確に渡されていないと、管理職は現場から上がってきた判断を、自分で決めることをためらいます。すると、管理職は判断の中継役となり、現場からの「どうしますか?」を、そのまま社長に上げる形になります。

また、社長の側にも、判断が管理職を素通りして社長の元に戻ってくる原因があることがあります。

1つ目。管理職を通さずに、現場に直接答えを伝えてしまう。 2つ目。管理職が決めたことを、後から社長が変えてしまう。

このようなことが続くと、現場の社員は「管理職に聞いても結局社長の判断になるなら、最初から社長に聞いたほうが早い」と考えるようになります。結果として、管理職の存在意義が薄れ、社長に直接判断が集中することにつながるのです。

判断が戻る形と、管理職で決まる形 素通りする形 社長 管理職 現場 管理職で決まる形 社長 管理職 現場 そのまま上げる 直接聞く 管理職が決める 例外だけ 管理職に「決めてよい範囲」が渡ると、社長に上がるのは例外だけになる

ネオキャリア(みんなの採用部)の調査では、経営者の77.6%が「現場対応を減らし、本来の経営業務に時間を割きたい」と答えています。さらに、そう答えた経営者に、本来の経営業務に集中するために必要な環境や支援を聞くと、最も多かったのは「現場の育成やマネジメントを担える管理職の確保」で71.1%でした(ネオキャリア(みんなの採用部)調べ)。

管理職を新たに確保することも重要ですが、その前に、今いる管理職に「どこまでなら自分で判断してよいか」という明確な範囲を渡せているかを確認する方が、より効果的かもしれません。管理職が自分で決められる範囲が広がれば、現場からの判断を管理職のところで受け止められるようになります。

戻ってきた判断を、1週間だけ記録して数える

では、社長に戻ってくる判断を減らすために、何から始めればよいのでしょうか。まずは、「戻ってきた判断」を目に見える形にすることから始めましょう。

おすすめしたいのは、1週間だけ、社長に届いた「これ、どうしますか」という判断を求める連絡を、すべて記録して数えることです。休みの日や外出中に電話やチャットで届いたものも、すべて含めてください。ノートや表計算ソフトを用意して、以下の項目を記録してみましょう。

表①:戻ってきた判断の記録

日時 誰から(現場・管理職) 何についての判断か 社長が答えたこと 同じ質問は何回目か
10月20日 10:30 現場 お客様からの値引きの相談 「今回は受けてよい」 3回目

「誰から」の項目を記録することで、判断がどこで止まっているのかが見えてきます。もし現場から直接届く判断が多ければ、管理職を素通りして社長の元に届いていると分かります。

1週間たったら、記録したすべての判断を、以下の3つに分けてみましょう。

表②:戻ってきた判断の分類と対処

分け方 例 どうするか
A:基準があれば社員が決められた判断 決まった範囲の値引き、よくある問い合わせへの答え方 基準を言葉にして社員に渡す
B:管理職が決めるべき判断 チーム内の仕事の割り振り、急な休みの穴の埋め方 管理職に決めてよい範囲を渡す
C:社長にしか決められない判断 会社の向かう先、大きな投資、人の採用や配置の最終決定 社長が持ち続ける
1週間の記録を、3つに分ける 1週間の記録 休みの日・外出中に届いたものも入れる A 社員が決められる → 基準を言葉にして渡す B 管理職が決める → 決めてよい範囲を渡す C 社長にしか決められない → 社長が持ち続ける AとBが多いほど、人を増やすより基準を渡すほうが効く

この記録と分類を通じて、何が頻繁に社長の元に戻ってくるのか、そしてそれが本当に社長が判断すべきことなのかが見えてきます。AやBに分類される判断が多いほど、人を増やすことよりも「判断の基準」を渡すことの方が、会社の力を伸ばし、社長の時間を確保することに大きく貢献するでしょう。もちろん、Cのような社長にしか決められない判断はなくなりませんし、なくす必要もありません。それらに集中する時間を生み出すことが、この取り組みの目的です。

渡す順番は「何度も戻ってくる判断」から

「判断の基準を渡す」と言っても、一度に会社のすべての判断基準を洗い出して言語化するのは大変です。焦る必要はありません。

まずは、先の記録表①で「同じ質問が何回も戻ってきた判断」の中から、1つだけ選んでみましょう。そして、その判断に関する基準を、短い言葉にして社員に渡すことから始めます。例えば、「この範囲なら自分で決めてよい」「ここを超えたら社長に上げてほしい」といった、具体的な線引きを示す言葉です。

渡した基準は、一度で完璧に完成するものではありません。その基準を渡したあとも、もし同じような質問が戻ってきたら、それは「基準の言葉のどこが足りなかったのか」「社員が迷ってしまうポイントはどこか」を教えてくれている合図です。その都度、基準の言葉を足したり、表現をより分かりやすくしたりして、少しずつ磨き上げていきましょう。

こうして基準を整えていくと、社長の元に戻ってくる判断は、例外的なものが中心になっていきます。そうなれば、社長は休みの日に連絡を気にしながら過ごす必要もなくなり、本来の業務に集中できる時間が増えていくはずです。

どの判断から渡すか、基準の言葉をどう決めるかは、会社ごとに違います。自社の状況に合わせて、少しずつ着実に進めていくことが大切です。

戻ってきた判断をどう分け、管理職にどこまで渡すかを自社だけで決めきれないときは、お問い合わせからご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 任せて失敗したら、結局社長が後始末をすることになりませんか?

A1. 最初は、表②でAに分類された「基準があれば社員が決められた判断」から渡すことをおすすめします。これらは、失敗しても取り返しがつきやすい、あるいは会社への影響が小さい範囲の判断です。そういった小さな失敗から経験を積み、社員の判断力を高めていきましょう。

Q2. 休みの日の連絡を禁止すれば解決しますか?

A2. 連絡を禁止しても、判断が戻ってくる根本的な理由は残ったままです。社員は判断に迷い、結局は出社するまで、あるいは社長と連絡が取れるまで、その仕事を止めてしまうことになるかもしれません。問題の本質は「判断の基準が共有されていないこと」にあるため、戻ってくる判断そのものを減らす取り組みが先です。本文で触れたように、戻ってくるのが例外的な判断だけになれば、休みの日に連絡を待つ必要も自然と減っていきます。

Q3. 管理職がまだ育っていない場合はどうすればいいですか?

A3. 管理職にも、まず小さな「決めてよい範囲」を1つだけ渡すところから始めましょう。そして、その範囲で管理職が下した判断の結果を、社長と一緒に振り返る機会を設けることが大切です。決めた経験を積み重ねることで、管理職は判断に自信を持てるようになっていきます。

Q4. 判断の基準は、文書にしないといけませんか?

A4. 最初からきっちりとした文書にする必要はありません。まずは、短い言葉や箇条書きで十分です。大事なのは、社長の頭の中にあった基準を言葉にして社員に渡し、実際に運用してみること。そして、そこから戻ってきた質問を通じて、基準の足りない部分を足していくことです。徐々に形を整えていけば問題ありません。

Q5. AIに判断を任せることはできますか?

A5. 判断に必要な材料を集めたり、過去のデータから傾向を分析したりする上で、AIは非常に役立ちます。しかし、最終的に「どこまでAIに判断を任せるか」を決めるのは、人間である社長や管理職の役割です。先に人が判断の基準を明確にし、その範囲内でAIを活用するという順番が重要になります。社内でAIを使うときに先に決めておくことは、AI研修をしたのに使われない理由と、やり直す前の順番で扱っています。

参考(一次情報)

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