経営分析 ・ 2026.07.14
「畳むしかない」と決める前に——サロンにもある、“渡す”という出口

「畳むしかない」と決める前に——サロンにもある、"渡す"という出口
美容室の倒産・廃業は過去最多の水準です。ただ、廃業(お店をゼロにする)だけが出口ではありません。第三者への引き継ぎ(M&A)や、スタッフへの承継という"渡す"選択もあります。実際、廃業した会社の約半数は赤字ではありません=続けられないのではなく「渡す先を知らなかった」ケースが少なくないのです。今すぐ売る話ではなく、選択肢を知り、いつでも動ける状態にしておくことが大切。まずは公的な相談窓口から。
先に結論:「畳む」と「渡す」は、別の出口です
「もう長くは続けられない」「後継者がいないから、お店を畳むしかないか…」。
もしあなたが今、そう考えているとしたら、その決断をする前に、一つだけ知っておいてほしいことがあります。それは、お店の「出口」が「廃業(お店をゼロにして閉じること)」だけではない、ということです。
お店には、「承継(次の担い手に引き継ぐこと)」という、もう一つの大切な出口があります。この「承継」は、第三者への事業の引き継ぎ(M&A)や、長年支えてくれたスタッフへの承継など、いくつかの形があります。
私たちはつい「続けられないなら畳むしかない」と考えがちです。しかし、実際には、廃業した会社の約半数が赤字ではなかった(東京商工リサーチ)というデータもあります。これはつまり、「続けられないから畳む」という選択の裏には、「お店を渡す先を知らなかった」というケースが少なくない、ということかもしれません。
今すぐお店を売るかどうかの話ではありません。大切なのは、あなたの努力で築き上げてきたお店に、どんな選択肢が残されているのかを、早く知っておくことです。選択肢を知り、いつでも動ける状態にしておくことには、大きな価値があるはずです。
なぜ今、"渡す"という選択を知っておくべきか——数字が示す現実
美容サロン業界は、今、大きな変化の波に直面しています。厳しい競争環境の中、多くのお店が岐路に立たされています。
実際、美容室の倒産件数は、2024年に114件と過去最多を記録しました(東京商工リサーチ)。これは、サロンオーナーの皆さんが、経営の厳しさを肌で感じている証拠ではないでしょうか。
さらに、業界全体に目を向けても、休廃業や解散を選ぶ企業は増え続けています。2024年には、全国で6万2,695件もの企業が休廃業・解散を選択し、これも過去最多となりました。そして注目すべきは、そのうち約半数にあたる48.5%の企業が、実は赤字ではなかった、という事実です(東京商工リサーチ)。
つまり、利益が出ていたにもかかわらず、お店を閉じる決断をした企業が非常に多いということです。
では、なぜ黒字なのに畳んでしまうのでしょうか。その大きな理由の一つが「後継者不足」です。全国の企業のうち、後継者がいないと答えた会社の割合(後継者不在率)は52.1%に上ります(帝国データバンク)。これは、利益を上げ、お客様にも愛されているお店が、ただ「引き継ぐ人がいない」という理由だけで、その歴史に幕を閉じてしまう現実が、全国で広がっていることを示しています。
あなたのサロンも、もしかしたらこの「黒字なのに継ぐ人がいない」という状況に当てはまるかもしれません。だからこそ、廃業という道を選ぶ前に、「渡す」という選択肢があることを、今こそ知っておく必要があるのです。
廃業で"消えるもの"、承継で"残るもの"
お店を畳む「廃業」と、お店を次の担い手に「承継(渡す)」では、その後に残るもの・消えるものが大きく異なります。
廃業を選んだ場合、長年培ってきたものが、惜しまれつつもゼロになってしまいます。
- スタッフの雇用:長年苦楽を共にしてきたスタッフの働き口が失われます。
- 積み上げてきたお客様:お客様は次に行くサロンを探さなければならず、大切にしてきた関係が途切れてしまいます。
- お店の信用・技術(目に見えない価値):オーナー様のこだわりや技術、お店の雰囲気といった「のれん(お店の信用・お客様・技術といった目に見えない価値)」も、形としては残せません。
- お金:テナントの原状回復費用や閉店に関わる手続き費用など、廃業には意外と費用がかかるものです。
一方、「承継」という道を選べば、これらの大切なものを次の担い手に引き継ぐことができます。
| 観点 | 廃業(ゼロにする) | 承継(渡す) |
|---|---|---|
| スタッフの雇用 | 失われる | 引き継げる |
| 積み上げたお客様 | 離散する | 次の担い手へ残る |
| お店の信用・技術(目に見えない価値) | 消える | 受け継がれる |
| お金 | 原状回復などの費用がかかる | 価値として引き継げる場合がある |
承継は、単に売上や設備を引き渡すという話ではありません。お客様との関係性、スタッフの雇用、そしてお店が長年かけて築き上げてきた「雇用と利益を生み出す仕組み」ごと、次の世代に残せるかどうかという違いなのです。
サロンの承継、3つの道——親族・スタッフ・第三者(M&A)
では、具体的に「サロンを渡す」とは、どのような方法があるのでしょうか。大きく分けて、3つの道があります。
- 親族へ引き継ぐ:お子さんなど、ご家族に経営を任せる道です。
- スタッフへ引き継ぐ:長年お店を支えてきた従業員に、経営を託す道です。
- 第三者へ引き継ぐ(M&A):お店を継ぎたい外部の事業者や個人に、事業を引き渡す道です。M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業や事業の合併・買収を指します。美容サロンの世界では、この「第三者への事業の引き継ぎ」として使われることが一般的です。
「うちは息子がいないから、親族承継は無理だ」と考えているオーナー様もいらっしゃるかもしれません。しかし、全国の事業承継の実態を見ると、興味深いデータがあります。従業員などへの「内部昇格」による承継が36.4%を占め、親族への承継(同族承継32.2%)を上回っているのです(帝国データバンク)。これは、「親族がいないから廃業しかない」という前提自体が、もう過去のものになりつつあることを示しています。
もし、これらの承継の選択肢を検討してみたいと思ったら、まずどこに相談すれば良いのでしょうか。
おすすめは、全国各地に設置されている公的窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」です。ここは中小企業の事業承継を支援するために国が設けている相談窓口で、相談は無料です。令和6年度には、全国で2万3千件を超える相談が寄せられ、第三者への引き継ぎの成約件数は2,132件と過去最高を記録しています(中小企業基盤整備機構)。専門家が中立的な立場でアドバイスをくれるため、安心して最初の扉を叩くことができます。
| 道 | 引き継ぐ相手 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 親族へ | 子など家族 | 税金(贈与・相続)の壁・本人の意思 |
| スタッフへ | 従業員 | 買い取り資金・個人保証の引き継ぎ |
| 第三者へ(M&A) | 外部の買い手 | 相手探し・条件交渉は公的窓口や登録機関へ |
売る前に知っておきたい注意点——"必ず高く売れる"は誤解です
お店を承継する道がある、と聞くと「うちのお店も高く売れるかも?」と期待するかもしれません。しかし、一つ冷静になって知っておいていただきたいことがあります。それは、どんなお店でも必ず売れるわけではなく、ましてや「必ず高く売れる」という誤解は禁物だということです。
特に零細の個人店の場合、買い手や後継者にとって魅力的なお店であるかどうかが重要になります。具体的には、安定したお客様の流れがあるか、立地はどうか、優秀なスタッフがいるか、そして、オーナー様がいなくても同じ品質のサービスを再現できる仕組みがあるか、といった点が評価の対象です。店主一人にすべてを頼りきっているお店では、たとえお店の信用や技術といった「のれん」があっても、その価値を客観的に評価し、承継を成立させるのが難しい場合もあります。
また、承継を進める上で、仲介業者を利用する際には、手数料の問題や、情報の漏洩リスクにも注意が必要です。まずは、先ほどご紹介した公的な窓口や、国に登録された信頼できる機関を起点に情報収集を始めるのが、安全な一歩と言えるでしょう。
スタッフへの承継を選ぶ場合も、後継者となるスタッフの買い取り資金や、お店の負債に対する個人保証の問題が浮上することがあります。親族承継では、贈与や相続に関する税金が大きな壁となることも珍しくありません。
これらの具体的な手続きや税金については、個別の事情が大きく影響するため、必ず税理士や公的な窓口などの専門家にご相談ください。私たちアーキブルは、お店を「承継を選べる状態に整える伴走」を主な役割としています。実際に買い手を探したり、税務・法務の具体的な手続きを仲介したりする当事者ではありませんのでご留意ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. うちのような小さな個人店でも承継できますか?
可能性はあります。承継の可否は、お店の規模だけでなく、買い手や後継者にとってどれだけの魅力があるかで変わってきます。安定したお客様の流れ、良い立地、優秀なスタッフ、オーナー様がいなくてもサービスを再現できる仕組みなど、お店にどんな「価値」が残っているかを棚卸しすることから始めてみましょう。
Q2. 今すぐ売らないといけないのですか?
いいえ、今すぐ売らなければならないわけではありません。事業承継は「売り時」の話というよりは「備え」の話と捉えるのが適切です。選択肢を知り、お店の数字を見える化し、オーナー様一人に依存しないお店の体制を整えておくことが、いざという時にスムーズに動ける準備になります。
Q3. まず誰に相談すればいいですか?
まずは、全国各地にある公的窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」に相談することをおすすめします。相談は無料で、いきなり売却を迫られるようなことはありません。中立的な立場で、あなたの状況に合わせたアドバイスを得られるでしょう。税金や法的な手続きについては、税理士など専門家にご相談ください。
Q4. スタッフに継いでもらうことはできますか?
はい、現実的な選択肢の一つです。前述の通り、全国的に見ても従業員などへの承継は、親族承継を上回る割合で増えています。ただし、後継者となるスタッフの買い取り資金の確保や、個人保証の引き継ぎ、そして育成計画など、早めの準備と税理士などの専門家への相談が不可欠になります。
参考(一次情報)
- 全国「後継者不在率」動向調査(2024年/帝国データバンク) https://www.tdb.co.jp/report/economic/succession2024/
- 2024年の「休廃業・解散」企業/「美容室」の倒産(東京商工リサーチ) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200854_1527.html
- 事業承継・引継ぎ支援センターの実績(中小企業基盤整備機構) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001727.000021609.html
どの道があなたのサロンに合うのか、そもそも承継できる状態なのかは、一店一店、事情が異なります。具体的な手続きや税金に関するご相談は専門家や公的窓口へ。そして、お店を"渡せる状態"に整える準備、その一歩を踏み出す伴走は、私たちアーキブルの専門領域です。
アーキブルでは、あなたのサロンの現状を棚卸しする無料の経営診断(13問・約3分)を行っています。まずはお気軽にご活用いただき、あなたのサロンの「これから」を考えるきっかけにしてください。
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