経営分析 ・ 2026.07.11
施術売上だけで戦わない——「値上げ」が効かなくなる前に持ちたい、サロンの“2本目の柱”

施術売上だけで戦わない——「値上げ」が効かなくなる前に持ちたい、サロンの"2本目の柱"
先に結論:施術売上"だけ"で戦うと、なぜ構造的に苦しいのか
美容サロンのオーナー様、幹部の皆様、日々のサロン経営お疲れ様です。先に結論をお伝えします。
今、美容室市場全体はほぼ横ばいか微減傾向にあるにもかかわらず、お客様お一人あたりの客単価は過去最高水準にあります。この伸びの多くは、実は**「値上げ」**で支えられている現実があります。ホットペッパービューティーアカデミーの「美容センサス2024年上期」によると、客単価が上がった理由として「メニュー料金の値上げ」を挙げたお客様は、女性で75.1%、男性で81.2%と圧倒的多数です。
しかし、値上げだけで売上を伸ばし続けることには限界があります。お客様が感じる「適正価格」を超えれば、来店頻度の低下やお客様離れにつながる可能性も否定できません。
さらに、施術による売上は「席の数×営業時間×施術者の人数」で物理的な天井が決まる働き方です。どれだけがんばっても、この3つの要素が増えない限り、売上を劇的に増やすことはできません。これは、まさに「時間の切り売り」という働き方の構造的な課題です。
だからこそ、施術という「時間を売る」以外の収益源、いわゆる**"2本目の柱"**を持つという発想が非常に重要になってきます。ただし、「複合化すれば儲かる」「誰でも簡単に稼げる」といった魔法のような話ではありません。在庫や手間、そして法律面の注意もセットで考える必要があります。
「2本目の柱」とは何か——時間を売る以外の収益
サロンの売上の大部分を占める施術は、お客様が来店され、施術者が時間と技術を提供することで生まれる売上です。この働き方では、お客様の滞在時間や施術者の労働時間に売上が比例するため、どうしても上限があります。
それに対し、2本目の柱とは、「時間を売る」こと以外の収益を指します。具体的には、大きく分けて以下の2つの方向性が考えられます。
- 店販のネット販売(オンラインストア):サロンで扱っているシャンプーやトリートメント、スタイリング剤、美容液などの商品を、お客様が自宅からでも購入できるオンラインストアを作る考え方です。お客様は来店時に相談・体験し、後日自宅でゆっくりと商品を検討・購入できるようになります。
- オンライン講座・コンテンツ:施術者の持つ専門知識や技術を、動画講座やオンラインセミナー、デジタルコンテンツとして提供する考え方です。例えば、自宅でできるヘアケアの方法、メイクのコツ、ネイルアートの基礎など、技術者ならではの知識を「在庫を持たない商品」としてお客様に届けることができます。
これらは、来店という物理的な制約や、施術者の時間という制約を受けにくい点が特徴です。
施術売上と"2本目の柱"の違い
| 観点 | 施術売上 | 2本目の柱(物販ネット化・講座) |
|---|---|---|
| 売上の決まり方 | 席×時間×人手で天井がある | 時間の制約を受けにくい |
| 増やし方 | 人を増やす・値上げ | 既存のお客様への"もう一つの提案" |
| 主なコスト | 人件費・場所 | 在庫・手間・法律の注意 |
| 相性 | 来店が前提 | 来店の合間・遠方のお客様にも届く |
なぜ今"店販のネット化"に伸びしろがあるのか
サロンにおける店販(サロンで売る商品)は、売上全体に占める割合がまだ小さいことが多いのが現状ではないでしょうか。ホットペッパービューティーアカデミーの「美容センサス2024年上期」によると、お客様が美容室の客単価が上がった理由として「店販の購入額が増えた」と回答した人は、女性でわずか4.2%、男性に至っては4.9%にとどまっています。
これは裏を返せば、店販がサロンの客単価アップにおいて、まだ手つかずの"もう一つの財布"である可能性を示唆しています。
現代社会では、多くのお客様がネットで買い物をすることに慣れています。経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によると、家庭向けのネット販売市場は年々拡大しています。一方で、化粧品や医薬品、美容健康関連商品のネットで買われる割合は8.82%と、他の商品カテゴリーと比較するとまだ低めです。
この状況は、「サロンが扱うような信頼性の高い美容商品」と「ネットでの手軽な購入」を組み合わせることで、まだ大きな伸びしろがある、つまり**「サロンの商品×ネット」はまだ空いている土俵**と見ることができるかもしれません。お客様がサロンで商品を試し、その場では買わずに後日自宅からネットで購入するといった新しい流れを生み出す可能性も考えられます。
やる前に知っておきたい落とし穴——在庫・手間・法律
施術売上以外の2本目の柱を導入することは、単に「余っている時間を埋める」というよりは、「これまでの本業とは別の労働を足す」という側面が強いことを知っておく必要があります。特に、物販のネット化には、以下のような手間とお金がかかります。
- 在庫の管理と仕入れ: 売れる商品を予測し、適切な量を仕入れる必要があります。売れ残れば、在庫がそのまま損になり、保管スペースも必要です。仕入れた商品がどれだけ売れたかを示す「消化率」を見える化しておくと、次にどれを・どれだけ仕入れるかの判断がしやすくなります。
- 商品の準備と発送: 商品の写真撮影、説明文の作成、注文が入れば梱包して発送する手間が発生します。この発送作業は、日々のスケジュールの空き時間に回し、「15時までに発送」など締め時間を決めておくと、本業の施術を圧迫せずに続けやすくなります。
- 返品・交換対応: お客様からの問い合わせや、万が一の返品・交換にも対応しなければなりません。返品・交換の条件や手順をあらかじめマニュアルにしておくと、対応のばらつきやトラブルを防ぎやすくなります。
これらの手間は、人手の少ない中小〜零細サロン(東京商工リサーチの調査によると、美容室の倒産の約9割が従業員5人未満の小規模事業所です)にとって、本業の施術を圧迫しかねない重い負担となる可能性があります。
さらに、事業を複合化する際には法律面の注意も欠かせません。
- 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律): 化粧品やヘアケア商品の効果効能について、「治る」「生える」といった断定的な表現や、過度な表現は禁止されています。表現方法には細心の注意が必要です。
- 特定商取引法・景品表示法: オンライン講座やサブスクリプションサービスの募集、商品のネット販売を行う場合は、特定商取引法に基づく表記(事業者名、連絡先、販売価格など)が必要です。また、景品表示法により、商品の効果やサービスのメリットを偽りなく、誤解を招かないように表示することが求められます。「誰でも簡単に儲かる」「必ず効果が出る」といった煽り立てるような表現は、法に触れる可能性があります。専門家への確認が必要な場合もあります。
また、サロン専売品をネットで販売する際には、すでに他のECサイトで販売されている最安値品や並行輸入品との価格競争にさらされるリスクがあります。加えて、お客様が担当者を介さずにネットで購入するようになることで、これまで築いてきたお客様との直接的な関係が薄れ、お客様離反につながる可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
始める前のチェック
| 確認すること | なぜ大事か |
|---|---|
| 本業の施術を圧迫しないか | 人手が薄い店ほど複合化が負担になる |
| 在庫・発送を回せるか | 売れ残りは在庫がそのまま損になる |
| 法律の表現に触れないか | 薬機法・景品表示法・特定商取引法の対象 |
| 「その店で買う理由」があるか | ネット最安値と競うと関係が薄れる |
零細サロンが踏み出す"最初の小さな一歩"
ここまで聞くと、「やっぱりうちのような小さな店には無理か…」と感じてしまうかもしれません。しかし、大切なのは全部を一度にやろうとしないことです。
まずは、既存のお客様との関係を軸に、無理なく試せる1商品・1講座から始めてみるのが現実的です。
- 既存のお客様の声に耳を傾ける: お客様が日頃どんなことに困っていて、どんな商品や情報があれば喜んでくれるかをヒアリングしてみましょう。施術中に交わす会話の中から、ヒントが得られるかもしれません。
- 「あの人に相談して買いたい」理由を作る: ただ商品を並べるだけでなく、「この人から買いたい」「この店が教えてくれることなら信頼できる」というお客様の気持ちを育むことが重要です。押し売りは逆効果でお客様満足を下げてしまう可能性があります。
- オンライン講座なら「お困りごと一つ」に絞る: 例えば「広がる髪の正しい乾かし方」や「セルフネイルの持ちを良くするコツ」など、既存のお客様が本当に困っている具体的なお悩み一つに絞って、短い動画講座やオンラインでのマンツーマンレッスンから試してみるのも良いでしょう。
ただし、「自店で何を・いくらで・どの客層に・どの粗利で置くか」という具体的な設計は、サロンの仕入れ条件、在庫の回転状況、お客様の層によって大きく変わってきます。一律の正解はないため、自店の状況に合わせて丁寧に設計していく必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 店販比率(売上に占める物販の割合)の目安はありますか?
一律の「正解値」というものはありません。サロンの客層、扱っている商品、仕入れ条件によって適正な比率は大きく変わります。まずは、ご自身のサロンの現状の店販比率がどのくらいか、一度数えてみるところから始めるのが良いでしょう。そこから、無理のない範囲で少しずつ伸ばしていく目標を立てることが現実的です。
Q2. 物販は施術より儲かりますか?
一概には言えません。物販の粗利は、商品の仕入れ条件や在庫の回転率によって大きく変動します。施術は人件費と場所代が主なコストですが、物販は仕入れ費用に加え、売れ残った場合に在庫がそのまま損になってしまうリスクもあります。「施術より必ず儲かる」と決めつけてかかるのではなく、まずは小さく試してみて、自店の数字で利益が出るかどうかを確かめる必要があります。
Q3. オンライン講座は何から始めればいいですか?
まず、既存のお客様が本当に困っていること、または「もっと知りたい」と思っていること一つに絞ってみましょう。例えば、自宅でのヘアケアの具体的な方法や、簡単なアレンジ術などです。いきなり複雑なものや大きなコンテンツを作るのではなく、まずは短い動画や簡単なPDF資料、あるいは数人限定のオンラインセミナーなど、小さく試せる形から始めることをおすすめします。集客、撮影、継続的な対応には手間がかかるため、無理のない範囲でスタートし、募集時の表現が景品表示法や特定商取引法に触れないよう、注意が必要です。
Q4. うちのような小さな店でもできますか?
できないわけではありませんが、人手が限られる小さな店ほど、「本業の施術を圧迫しない範囲で」という原則を徹底することが重要です。新しいことを始めるのは良いことですが、それによって本業がおろそかになり、お客様満足度が下がってしまうのは本末転倒です。何を残し、何を足すのか、そしてどれくらいのペースで進めるのかの見極めが非常に大切になります。まずは無理のない小さな一歩から、お客様の反応を見ながら進めていきましょう。
参考(一次情報)
- 美容センサス2024年上期 美容室・理容室編(ホットペッパービューティーアカデミー/リクルート) https://hba.beauty.hotpepper.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/census_hair_20240625.pdf
- 「美容室」の倒産 107件で過去最多を更新(東京商工リサーチ・2024年1-11月/従業員5人未満が93件=86.9%) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200490_1527.html
- 令和6年度 電子商取引に関する市場調査(経済産業省) https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
「2本目の柱」がご自身のサロンに合うのか、何から始めるべきなのかは、お客様の層、仕入れの条件、そしてサロンの人手によって大きく変わってきます。アーキブルでは、貴店の売上の伸びしろがどこにあるのかを一緒に見立てる、無料の経営診断(13問・約3分で完結)を行っています。ぜひお気軽にご活用ください。
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