経営分析2026.07.04

値上げでは市場は戻らない——美容センサス2026が示した「伸びしろは来店頻度」と、頻度が落ちる本当の理由

値上げでは市場は戻らない——美容センサス2026が示した「伸びしろは来店頻度」と、頻度が落ちる本当の理由

値上げでは市場は戻らない——伸びしろは「来店頻度」にある

結論から先に:値上げでなく、伸びしろは"来店頻度"にある

先に結論をお伝えします。

美容室をはじめとする美容サロン市場は、この数年間の値上げ努力にもかかわらず、再び縮小に転じています。市場の縮小は、客単価が上がったことで一時的に鈍化していましたが、最新のデータでは「客単価はほぼ横ばい(むしろ微増)」であるにもかかわらず、市場全体が約6%も縮んでいることが示されました。

この縮小の主因は、お客様一人ひとりの**「来店頻度の低下」**にあります。

つまり、次に設計すべきは「値上げ」ではなく、「もう一度、足を運んでいただく設計(リピート)」です。そして、来店頻度が落ちるその根っこには、**〈お客様の定着〉〈スタッフの定着〉**という"二重の定着"が深く関わっています。

現場では「値上げを頑張ったのに、どうして売上が戻らないのだろう」という戸惑いが広がっているかもしれません。しかし、数字は、美容サロン市場の土俵が大きく変わったことを示しています。これまでの「客単価を上げる」戦略だけでは立ち行かなくなっているのです。

値上げでは戻らない——データが示す"伸びしろは来店頻度"

ホットペッパービューティーアカデミーが発表した「美容センサス2026年上期」によれば、美容室市場は1兆3,063億円、前年比で−5.9%の縮小となりました。全美容サロン市場を見ても2兆5,299億円と、約−6%と大きく落ち込んでいます。

この市場縮小のデータを見ると、多くのオーナー様は「やはり値上げの影響で、お客様が来店しなくなったのか」と感じるかもしれません。しかし、数字を細かく見ていくと、少し違った実情が見えてきます。

【表①】美容センサス2026上期の要点

指標 2026年上期 前年比
美容室市場規模 1兆3,063億円 -5.9%
全美容サロン市場規模 2兆5,299億円 約 -6%
客単価(女性) 7,686円 +0.2%
客単価(男性) 4,853円 -0.5%
年間来店回数(女性) 4.18回 減少
年間来店回数(男性) 5.05回 減少
利用率(女性) 77.5% -1.7pt
利用率(男性) 32.7% -1.8pt

データが示すように、お客様が1回あたりに支払う客単価は、女性で7,686円(前年比+0.2%)、男性で4,853円(前年比-0.5%)と、ほぼ横ばいを保っています。女性のお客様に関しては、むしろわずかに単価が上がっているのです。

これは、サロンオーナーの皆様が苦労して取り組んできた値上げ自体は、お客様にある程度受け入れられ、客単価としては「効いている」と言えるでしょう。にもかかわらず市場が縮んだということは、市場縮小の真の原因は客単価ではない、と考えるのが自然です。

次に目が行くのは、「年間来店回数」と「利用率」です。年間来店回数は女性で4.18回、男性で5.05回といずれも前年より減少。利用率も女性で−1.7pt、男性で−1.8ptと大きく下がっています。

つまり、値上げという努力は実を結んでいるものの、その成果を上回る形で、お客様がサロンに足を運ぶ回数そのものが減ってしまっているのです。

市場は−5.9%。でも客単価は横ばい——減っているのは「来店頻度」 −5.9% 美容室市場の縮小 1兆3,063億円(前年比) +0.2% 客単価(女性)は横ばい 値上げ自体は効いている 4.18回 年間来店回数(女性)は減少 ここが縮小の主因 出典:美容センサス2026年上期(ホットペッパービューティーアカデミー/リクルート)

なぜ「客単価」ではなく「頻度」なのか——数字の読み方

美容センサス2026年上期の分析では、市場縮小の主因を「利用者数の減少」と「来店サイクルの長期化」と結論付けています。

注目すべきは、お客様が「サロンの利用を完全にやめてしまった」というよりは、「来店間隔を空けるようになった」という点です。これは、美容室を必要とする気持ちは変わらないものの、来店頻度を調整して、節約したり、セルフケアで補ったりしているお客様が増えていることを示唆しています。

来店頻度が落ちると、サロンの売上だけでなく、利益にも大きな影響が出ます

例えば、これまで毎月来てくれていたお客様が2か月に1回の来店になった場合、そのお客様からの売上は単純に半分になります。そして、売上が落ちれば利益も当然落ち込みます。

さらに重要なのは、新規のお客様を集めるには、広告費やクーポンなど、多額の「集客コスト」がかかる点です。一方で、一度来店してくれたお客様に「また来てもらう」ためのコストは、新規集客に比べてはるかに低い傾向にあります。

つまり、「また来てもらうお客様」が増えれば増えるほど、集客コストを抑えることができ、結果としてサロンの利益率は高まります

新規のお客様を集め続けるよりも、「すでに一度来てくださったお客様に、もう一度足を運んでもらう」ことの方が、長期的に見てサロンの売上と利益に大きく貢献するのです。

【表②】「値上げ設計」と「リピート(また来てもらう)設計」の対比

項目 値上げ設計 リピート(また来てもらう)設計
狙い 客単価の向上 来店頻度の向上
効くところ 一時的な売上向上、利益率の改善 安定した売上と利益の確保、顧客生涯価値の向上
限界 来店頻度低下のリスク、市場規模縮小への対策が不十分 即効性には欠ける、初期の仕組みづくりに時間と労力がかかる

頻度が落ちる理由①:お客様の"定着"——次に来るかは来店前に決まる

では、なぜお客様の来店頻度は落ちているのでしょうか?その理由の一つは、サロンがお客様を「定着させる」ための設計が弱い、という点にあります。

ホットペッパービューティーアカデミーの「HBA顧客離れ調査」(2024年2月発表)では、新規のお客様の約50%が2回目以降の来店で離脱し、さらにその半数が3回目以降で離脱しているという、厳しい現実が示されています。

さらに驚くべきことに、お客様が「別のサロンに変える」と判断する時期は、実際にサロンを変える"来店前"の段階から始まっていることもこの調査で明らかになっています。

これは何を意味するのでしょうか? お客様は、来店中のサービスや仕上がりに満足したとしても、次に予約をする明確な理由やきっかけがなければ、別のサロンを探し始める、ということです。

つまり、「一度お店に来てもらう」ことだけに注力し、「二度目、三度目と足を運んでもらうための設計」が弱いと、いくら新規集客を頑張っても、来店頻度はなかなか積み上がっていきません。目の前の売上は上がっても、長期的なお客様の定着にはつながりにくく、結果として市場全体の頻度低下の一因となるのです。

頻度が落ちる理由②:スタッフの"定着"——担当が辞めると、お客様も離れる

来店頻度が落ちるもう一つの理由は、サロンの「スタッフの定着」にあるかもしれません。

厚生労働省の資料によると、美容師の離職率は、1年以内で19.7%、3年以内では40.9%にも上ります。これは、新人美容師のおよそ4割が、3年以内に職場を離れてしまうという現実です。生活関連サービス業・娯楽業全体の離職率(11.1%)や産業全体の離職率(8.4%)と比べても、非常に高い水準にあることが分かります。

美容サロン、特に指名文化が強いお店では、担当スタッフの退職が、そのまま指名していたお客様の離反に直結しやすい傾向があります。お客様は「あの人にやってほしい」という気持ちで来店しているため、担当者が辞めてしまえば、店との関係性が途切れてしまい、別のサロンを探し始めることは珍しくありません。

このように、**「担当スタッフが辞める → そのお客様の来店が途切れる → サロン全体の来店頻度が落ちる」**という負の連鎖が起こりやすいのです。

もちろん、来店頻度の低下は、スタッフの離職"だけ"が理由ではありません。物価高によるお客様の節約志向や、自宅でできるセルフケア用品の進化、SNSでの情報収集の変化なども一因として挙げられます。しかし、ここでお伝えしたいのは、お客様の来店頻度低下の一因として、担当スタッフが辞めることで店とお客様の関係性が切れてしまうという「定着の問題」があるという観点です。

だから、次に設計するのは"二重の定着"

ここまで見てきたように、お客様の来店頻度が落ちる背景には、お客様自身が「また来たくなる」設計が弱いことと、お客様をサポートする「スタッフが長く働き続けられる」設計が弱いこと、という二つの定着の問題が重なっています。

だからこそ、次に設計すべきは、この二つの問題を別々に捉えるのではなく、〈お客様の定着〉と〈スタッフの定着〉を「同じ定着問題」として束ねて考えることです。

担当スタッフが長くサロンに定着し、お客様との信頼関係を深めていれば、お客様は「あの人に会いたい」「あの人にお願いしたい」という理由で、継続的に来店してくださいます。担当が続くことで指名のお客様が離れにくくなり、結果としてサロン全体の来店頻度が保たれ、安定した売上と利益につながるのです。

二重の定着——担当が続くほど、来店頻度が保たれる スタッフの定着 担当が長く続く 指名のお客様が 離れない 来店頻度が 保たれる 売上・利益が 安定 安定するから、育成・待遇に投資でき、さらに定着が進む 逆回転:担当が辞める → お客様も離れる → 来店頻度が落ちる 「採用して集める」だけでは、この逆回転は止まらない

では、具体的に何をすればいいのか。 サロンごとに状況も課題も異なるため、画一的な「こうすればうまくいく」という解決策を提示することはできません。例えば、評価制度の中身をどうするか、育成体系をどう構築するか、具体的なリピート施策をどう設計するかといった、自店に合わせた細かな設計は、各オーナー様ご自身で深く考える必要があります。

しかし、誰にでもできる「小さな一歩」はあります。 それは、まず自店の数字を一つ、正確に数えてみることです。

  1. 「新規のお客様の2回目再来率」
  2. 「担当スタッフが変わったとき、どれだけのお客様が店に残ってくれたか」

この二つの数字は、あなたのサロンにおける"二重の定着"の「現在地」をはっきりと映し出す鏡になります。この数字を把握することから、お客様とスタッフ、そしてサロンがともに定着し、来店頻度を再び上げていくための第一歩が始まるはずです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 値上げはもう意味がないのでしょうか?

いいえ、そんなことはありません。美容センサス2026年上期のデータを見ても、客単価はほぼ横ばい(女性は微増)で維持できており、サロンの努力による値上げ自体は、お客様にある程度受け入れられています。しかし、市場が縮んだ主因は「来店頻度の低下」にあるため、値上げ"だけ"では市場全体の回復にはつながりにくい、という状況です。値上げで適正な単価を保ちつつ、来店頻度を上げる施策を同時に考える必要があります。

Q2. 来店頻度を上げるための最初の一歩は何から始めればいいですか?

まず、自店の「新規のお客様の2回目再来率」を数えてみてください。HBA顧客離れ調査が示すように、お客様は来店前から「次も来るか」を判断しています。そのため、最初の一歩は、お客様が「また来たい」と感じる具体的な理由を、初回来店時から設計することです。例えば、「次回予約」をスムーズに促す声かけや、お客様一人ひとりに合わせた「次のご提案」を丁寧に行うことから始めてみましょう。

Q3. スタッフの定着とお客様の数は本当に関係するのでしょうか?

指名文化が強い美容サロンでは、担当スタッフの退職が、指名のお客様の離反に直結しやすい傾向があるのは事実です。お客様は「あの人にやってもらいたい」という強い気持ちで来店されているため、担当が変わると来店そのものを見送ってしまうことがあります。ただし、すべてのサロンで一律に同じ関係性があるわけではありません。自店の指名比率や、お客様とスタッフの関係性によって影響度は異なります。

Q4. 何から手をつければいいか分かりません。

まずは、自店の現状を把握することから始めましょう。この記事で提示した「頻度が落ちている層」や、「担当スタッフが変更になった後に、どれだけのお客様が店に残ってくれたか」といった数字を一つずつ正確に数えてみてください。お客様とスタッフの定着を促す「設計」は、それぞれのサロンの文化や状況によって最適な形が異なります。まずは現状を数字で捉え、課題を明確にすることが、具体的な次の一手を考えるための土台となります。

参考(一次情報)


この記事で見てきた「二重の定着」は、自店ではいまどの状態にあるのか——。アーキブルの無料診断(13問・約3分)に答えると、〈組織・人・やり方・お金〉の4つの視点で自店のスコアが出て、その場で**「まず手をつけるべき、一番弱い軸」**が分かります。来店頻度が落ちる根っこが、お客様の定着づくりにあるのか、スタッフの定着づくりにあるのか——次の一手の"優先順位"を、結果画面ですぐに受け取れます。登録不要・入力は最後の連絡先だけ。まずは、自店の現在地を1つ数えるところから始めてみてください。

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