経営分析 ・ 2026.09.07
【2026年】美容室オーナーが現場を抜けられない本当の理由——人が足りないからではありません

【2026年】美容室オーナーが現場を抜けられない本当の理由——人が足りないからではありません
先に結論をお伝えします——現場を抜けられないのは、人手不足のせいではありません
美容室のオーナーの多くが「人が増えたら、もっと経営に時間を割けるのに」と感じているのではないでしょうか。そして、現場から抜けられない理由を「人手不足」だと考えているかもしれません。しかし、結論からお伝えすると、オーナーが現場を抜けられないのは、人が足りないからではありません。
日本政策金融公庫が2026年2月26日に公表した調査(2025年12月中旬時点・美容業445社が回答)によると、美容業で人手が「不足」と答えた店は**20.0%**に過ぎません。これは全業種の30.6%よりも低い水準です。では、人手が足りないと答えた店はどのような対策を取っているのでしょうか。最も多かったのは「営業時間の短縮」で38.2%でした。一方で、「仕事を配り直す(従業員の多能化・兼任化)」という対策は11.2%と、全業種の24.7%の半分以下にとどまっています。
つまり、オーナーが現場に立ち続けざるを得ないのは、人数の問題ではなく、仕事がオーナー1人に集まったままになっていることが根本的な理由なのです。多くのお客様に選ばれる店づくりはもちろん重要ですが、美容業の経営上の問題点として「顧客数の減少」が55.4%で1位を占めていることからも、現場を抜けて経営に取り組む必要性は高まるばかりです。
「人が増えたら経営に集中できる」と考えているオーナーは、その前提自体が成り立っていない可能性が高いのです。
「人が増えたら」は、そもそも来ていません
オーナーが現場を抜け出せない根本原因が「人数不足」ではないとすれば、その実感はどこから来るのでしょうか。
同じ調査(2025年12月中旬時点)では、美容業において、過去1年間で従業員数が「増加」したと答えた店はわずか5.2%でした。実に87.2%の店では従業員数が「不変」であり、7.6%が「減少」しています。ほとんどの美容室で、この1年間で人数は増えていないのです。
さらに、従業員の「不足感」について見ると、美容業で「不足」と答えたのは20.0%でした。これは全業種平均の30.6%と比べると低い水準です。年間の推移を見ても、美容業の不足感は2021年の23.4%から2025年には20.0%へと下がり続けています。例えば、理容業の不足感は16.1%とさらに低く、ホテル・旅館業の59.2%と比べると、美容業の人手不足感は決して強いものではないことがわかります。
これらの数字が示すのは、美容業全体として「人がどんどん足りなくなっている」という状況ではない、ということです。人数が増えていないにもかかわらず、オーナーが現場に立ち続けているのは、やはり人数以外の原因があると考えられます。
人が足りないとき、美容室が最初にやるのは「店を閉めること」
では、実際に人手が足りないと感じている美容室は、どのような対応をしているのでしょうか。同じ調査では、人手が不足していると答えた美容業89社のうち、最も多く取られた対応は「営業時間の短縮」でした。
以下の表をご覧ください。
| 対応 | 美容業(n=89) | 全業種計(n=946) |
|---|---|---|
| 営業時間の短縮 | 38.2% | 33.9% |
| 従業員の新規採用 | 34.8% | 40.9% |
| 提供商品・サービスの変更 | 23.6% | 20.6% |
| スポットワーカー(短時間、単発の雇用者)の活用 | 14.6% | 24.0% |
| 業務プロセスの効率化 | 14.6% | 19.9% |
| 業務の機械化・IT化 | 12.4% | 15.5% |
(出典:日本政策金融公庫「雇用動向に関するアンケート調査結果(生活衛生関係営業の景気動向等調査・特別調査結果 2025年10〜12月期)」2026年2月26日公表。年1回の調査で、これが最新の集計です)
注目すべき点がいくつかあります。
1つ目。人手が不足していると答えた美容業の約4割(38.2%)が、まず「営業時間の短縮」を選んでいます。これは全業種平均(33.9%)よりも高い割合です。
2つ目。「従業員の多能化・兼任化」という、従業員間で仕事を配り直す対応は11.2%にとどまり、全業種平均の24.7%の半分以下です。
3つ目。約3割(31.5%)の美容室が「効果的な手段が見当たらない」と回答しています。これは全業種平均の24.3%よりも高い数字です。
これらの結果から見えてくるのは、美容室では人手が足りないときに、既存の従業員で仕事をどう回すか、という発想よりも、「店を閉めて対応する」という選択肢が先に浮かびやすい、という現状です。仕事を人に配り直す、という手が他の業種に比べて出てきにくい構造があると言えるでしょう。結果として残されるのは、「自分で何とかする」か「店を閉める」のいずれかになってしまうのです。
もちろん、営業時間の短縮自体が悪いわけではありません。週休3日を導入したり、予約時間を調整したりして、従業員の働きやすさや生産性の向上を目指して意図的に営業時間を短くする美容室もあります。しかし、選択肢として他に手がなく、結果的に営業時間を短くせざるを得ないケースも少なくないのではないでしょうか。
なぜ美容室では、仕事を配り直しにくいのか
では、なぜ美容室では、他の業種に比べて仕事を配り直すという選択肢が選ばれにくいのでしょうか。そこには美容室ならではの構造的な要因がいくつかあります。
1つ目。施術は資格と技術に紐づくので、配れない仕事がそもそも多いということです。美容師免許がなければ、お客様の髪に触れることはできません。そのため、資格がないアシスタントや受付スタッフに、カットやカラーといった専門性の高い仕事を割り振ることは不可能です。なお「人を増やせば解決する」と考えたくなりますが、その順番が危ういことは「あと1人入れば黒字」の記事で扱っているので、ここでは深追いしません。結果として、専門性の高い仕事は有資格者、特に技術力の高いオーナーに集中しがちになります。
2つ目。店の規模が小さいことが挙げられます。厚生労働省の令和6年度の統計(2025年3月末現在)では、全国の美容所1施設あたりの美容師は平均2.1人です(この数字は美容師の人数で、受付やアシスタントは含まれていません。この平均が何を意味するかは美容室の粗利の記事で詳しく扱っています)。小規模な店舗が多い分、多くの従業員を抱える大規模店のように、役割分担を細かく設定したり、複数人で仕事を分担したりする柔軟性が利きにくいのが実情です。
3つ目。オーナー自身が技術者としてキャリアを積んできたため、「配る側」の仕事を誰からも教わっていないケースが多いことです。長年、現場で「手が動く側」として技術を磨いてきたオーナーは、経営者として「仕事を配る」「指示を出す」「判断する」という役割については、学びの機会が少なかったかもしれません。役割が上がるほど、上の立場の人は現場の作業から手をあけていく必要があります。それは決して楽をするためではなく、配る仕事、決める仕事、未来を考える仕事に集中するためなのです。
これらの要因が重なり、美容室のオーナーは「自分でやった方が早い」という状況に陥りやすく、施術以外の裏方の仕事まで抱え込むことになりがちです。そして結果として現場から抜け出しにくい状況が生まれているのです。
抜けるのは「時間」ではなく「役割」からです
現場から抜け出すというのは、ただ「お店にいる時間を減らす」ことではありません。オーナーとして、現場の作業者としての役割を手放し、経営者としての役割にシフトすることです。そのために、まずは現状を客観的に把握し、小さな一歩から「役割」を意識して仕事を見直すことが重要です。
今日から数えられる具体的な3つの数字を提示します。これらを確認することから始めてみましょう。
1つ目。自分の施術売上が、店の売上の何割を占めているか。そして、売上だけでなく、利益でも何割を占めているかを確認してください。売上は高くても、その施術に要する時間やコストを考えると、必ずしも利益率が良いとは限りません。本当に「自分にしか生み出せない利益」はどれくらいなのか、客観的に把握することが第一歩です。
2つ目。自分にしかできない仕事が、週に何時間あるか洗い出してみましょう。これは施術だけでなく、仕入れ、経理、SNS運用、スタッフ育成など、店の運営に関わるすべての仕事を含みます。本当に「オーナーである自分」でなければできない仕事はどれくらいあるのかを明確にします。
3つ目。その洗い出した仕事のうち、明日から従業員に渡せるものはどれか、優先順位をつけてみてください。渡す順番は、「資格のいらない仕事」からです。例えば、受付とお席へのご案内、カウンセリングシートの用意、次回予約の声かけ、物販のご説明などが該当するかもしれません。最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、従業員の成長の機会にもつながります。なお、経理や備品の発注といった裏方の事務をどう手放すかは裏方業務の記事で扱っているので、ここでは深追いしません。
もちろん、ここから先の具体的な評価制度の中身、育成体系の作り方、給与設計といった部分は、それぞれの店の状況によって大きく変わります。共通の正解はありませんので、ご自身の店の数字を見ながら、渡す順番や方法を決めていく必要があります。
1人サロンの場合は、どうすればいいのか
1人サロンのオーナーは、そもそも「仕事を配る相手がいない」と感じるかもしれません。しかし、ここでも抜ける先は「人」ではなく「時間の枠」です。
誰かに仕事を渡すことが難しい1人サロンの場合、経営者としての役割に時間を使うためには、「予約を受けない時間」を意図的にカレンダーに置いてしまうことから始めてみましょう。
例えば、週に半日、あるいは毎日1時間など、決まった時間を「経営の時間」として確保し、その時間は一切予約を受け付けない、というルールを設けます。この時間は、店の将来を考える時間、新しいメニューを考案する時間、ウェブサイトの更新をする時間、集客戦略を練る時間など、現場作業ではない「オーナーの仕事」に充てるのです。
これは、いきなり大きな変化を求めるのではなく、小さな一歩として予約の枠を調整することから始めることができます。どのくらいの長さが適当かは、店の予約の入り方によって変わります。まずは短い枠から置いてみて、ご自身の店に合う長さを探してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自分の施術売上が店の売上の何割になったら、現場を離れても良いですか?
共通の明確な基準はありません。なぜなら、店の規模やビジネスモデルによって最適な割合は異なるためです。重要なのは、売上だけでなく、自分の施術が店の利益にどれだけ貢献しているかを把握することです。本文で提示したように、売上と利益の両面から、自分の仕事の役割を見つめ直し、どの仕事をいつ、誰に渡せるかという視点で考えてみてください。
Q2. 現場を離れたいのですが、スタッフが育っておらず心配です。どうすればいいですか?
スタッフが育っていないと感じるのは、オーナーが現場の仕事を抱え込んでいることが原因の一つかもしれません。スタッフの育成は、仕事を任せることから始まります。人が根づく店とそうでない店の違いは定着を点検する5つの歯車で扱っています。まずは資格のいらない簡単な業務から任せ、小さな成功体験を積ませることが重要です。完璧を求めず、徐々に役割を広げていく視点で取り組んでみましょう。
Q3. 「仕事を配り直す」と言われても、具体的に何をすればいいか分かりません。
まず、週に何時間、自分にしかできない仕事があるかを洗い出しましょう。その中から、資格が不要で、かつ従業員が少し練習すればできるような仕事に優先順位をつけます。例えば、受付とお席へのご案内、カウンセリングシートの用意、次回予約の声かけなどです。小さなことから従業員に任せてみることが第一歩です。
Q4. 営業時間を短縮することに抵抗があります。売上が減るのではないかと不安です。
営業時間の短縮が「他に手がなくて」のものであれば、売上への影響は懸念されるでしょう。しかし、意図的に営業時間を短縮し、その分を生産性向上や高付加価値なサービス提供、経営戦略の時間に充てることで、**空いた時間を経営の仕事に充てる形にできれば、短くした時間がそのまま損になるとは限りません。本文で述べたように、営業時間の短縮自体が悪いわけではなく、その「理由」と「目的」が重要です。
Q5. 1人サロンで、仕事を配る相手もいません。どうしたら現場を抜けられますか?
1人サロンの場合、仕事を配る相手がいないため、抜ける先は「人」ではなく「時間の枠」です。予約を受けない「経営の時間」を意識的にカレンダーに組み込み、その時間を店の未来を考えるための時間に充てましょう。例えば、週に数時間でも、予約を入れずに経営戦略や集客方法の検討に集中する時間を作ることが、現場からの脱却につながります。
参考(一次情報)
- 日本政策金融公庫「雇用動向に関するアンケート調査結果(生活衛生関係営業の景気動向等調査・特別調査結果 2025年10〜12月期)」2026年2月26日公表 https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/seikatsu26_0226a.pdf
- 日本政策金融公庫「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果(2026年4〜6月期)」2026年7月29日公表 https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/seikatsu2026_0729a.pdf
- 厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例」2025年10月21日公表 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/index.html
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