経営分析2026.09.01 ・ 更新 2026.08.31

【2026年】美容室の粗利が言えないと、打ち手は2つに減る

【2026年】美容室の粗利が言えないと、打ち手は2つに減る

「今月の売上は言えるのに、そこからいくら残ったかは即答できない」

もしそう感じているなら、打ち手は「もっと集客する」か「もっと働く」かの2つに絞られやすい状態です。

2026年7月29日に日本政策金融公庫が公表した「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果(2026年4~6月期)」を見ると、美容業453企業が経営上の問題点として最も多く挙げたのは「顧客数の減少」で55.4%に上りました。これは飲食・理容・クリーニングなど主な9業種の中では最も高く、飲食業の内訳まで含めると社交業(60.7%)に次いで2番目に高い数字です(順位は調査の表から数えたものです)。

「お客様が減っているから、売上が伸びないのは仕方がない」 そう考えても無理はありません。しかし、同じ調査で、その期に黒字だったと答えた店と赤字だったと答えた店の差を見ると、美容業が▲9.3とマイナスであるのに対し、理容業は+7.2でプラスです。同じ生活衛生業でも、採算の符号が逆になっています。

このことから、美容業の状況は「業界全体の景気が悪い」という話だけでは片づけられないことが見えてきます。

先に結論——粗利が言えない店では、打ち手が2つしか出てこない

先に結論をお伝えします。 「今月の粗利がいくらか」を即答できない状態が続くと、今後の打ち手は次の2つしか出てきません。

  1. もっと集客する
  2. もっと働く(営業時間を延ばす、オーナー自身が現場に入る、休みを削る)

この2つの打ち手は、どちらも売上だけを見て決めることができます。だから、粗利が言えない状態でも「やらなければ」と頭に浮かびやすいのです。

ここで言う粗利とは、売上から、施術に直接かかった材料費などの「変動費」を引いた残りのことです。粗利の考え方についてはこちらの記事でも触れています(そちらでは「売値−仕入れ」という形で説明しています)。

この記事は「お金が残らない原因を見つける」方法を解説するものではありません。その具体的なステップについては、こちらの記事で詳しくお伝えしていますので、合わせてご覧ください。

逆に言えば、粗利が数字で言えるようになるだけで、選べる手はここから増えます。この記事はそのための1つの数字の話です。

美容業の困りごとは「お客様の数」に集中している——それでも採算は戻っていない

日本政策金融公庫が2026年7月29日に公表した「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果(2026年4~6月期)」(美容業453企業が回答)によると、美容業が経営上の問題点として挙げた回答(複数回答・2つ以内)は次の通りです。

  • 顧客数の減少:55.4%
  • 仕入価格・人件費等の上昇を価格に転嫁困難:42.6%
  • 客単価の低下:18.5%

先にも述べた通り、顧客数の減少(55.4%)は、飲食・理容・クリーニングなど主な9業種の中では最も高く、飲食業の内訳まで含めると社交業(60.7%)に次いで2番目です。 一方、「仕入価格・人件費等の上昇を価格に転嫁困難」の42.6%という数字は、掲載業種の中で下から2番目に低い割合でした(最も低いのは理容業の36.3%、最も高いのは喫茶業の81.9%)。

同じ調査から、お客様の数、客単価、採算の動きを示す「DI」という数字を比べてみましょう。DIとは、お客様の数や客単価、採算が「増加・上昇・黒字」と答えた企業の割合から「減少・低下・赤字」と答えた企業の割合を引いた数値です。プラスであれば好転している企業が多く、マイナスであれば悪化している企業が多いことを示します。

項目 美容業 理容業 全業種計
お客様の数(前年同期との比較) ▲32.7 ▲17.2 ▲20.5
客単価(前年同期との比較) ▲4.2 0.0 +5.7
採算(その期に黒字か赤字か) ▲9.3 +7.2 ▲4.6

※いずれも「増えた・上がった・黒字と答えた店の割合」から「減った・下がった・赤字と答えた店の割合」を引いた値です。単位はポイント。項目名の正式な表記は、記事末尾の一次情報でご確認ください。

全業種計でも、お客様の数は減ったと答えた店のほうが多くなっています(▲20.5)。ただし客単価のほうは、上がったと答えた店のほうが多い(+5.7)。世の中全体としては客単価が上がる方向に動いているなかで、美容業は客単価が下がっていると答えた店のほうが多い状態にあります(▲4.2)。全業種では上げた店のほうが多く(+5.7)、美容業では下げた店のほうが多い(▲4.2)。どちらも「割合の差」であって、平均の値上げ幅ではありません。ここから分かるのは「上げている店と上げていない店のどちらが多いか」までで、自分の店がどちら側かは、この数字からは分かりません。だから見るべきは業界の数字ではなく、自分の店の数字です。加えて、お客様の数も減っています(▲32.7)。ここで注意したいのは、これが「お客様が32.7%減った」という意味ではないことです。お客様の数が減ったと答えた店のほうが、増えたと答えた店より32.7ポイント多い、という意味になります。

この調査結果を見る上で、オーナーに意識しておいていただきたい点が2つあります。

  1. 「経営上の問題点」は複数回答2つ以内という形式です。 「転嫁困難」と答えなかった企業が多かったとしても、それは「価格に転嫁できている」とは限りません。「顧客数の減少」と「客単価の低下」を優先して答えた結果かもしれません。
  2. この調査から、美容業がなぜ客単価を下げる側にいるのか、なぜ採算が戻らないのか、具体的な原因を特定することはできません。 分かるのは「経営上の問題として、お客様の数が減っていることを強く認識していること」と「客単価と採算が改善に向かっていないこと」の2点だけです。

現場のオーナーからも、次のような声が聞かれます。

「消耗品費や仕入価格は今後も上昇が見込まれる上に、節約志向の高まりから来店回数も減少するだろう。」(日本政策金融公庫「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果(2026年4~6月期)」三重県・来期悪化の理由より)

なぜ「もっと集客」と「もっと働く」しか出てこないのか

「もっと集客する」と「もっと働く」しか打ち手が出てこない理由は、これらが売上だけを見て決めることのできる打ち手だからです。粗利の具体的な数字が分からなくても、「売上を増やさなければ」「作業量を増やさなければ」という判断はできてしまいます。

もちろん、集客そのものは正しい打ち手です。問題は、それしか選べないことです。粗利の数字が具体的に見えていないと、集客に際して「1人のお客様に来てもらうために、いくらまで広告費を払えるか」という上限値を決めることができません。結果として、広告費ばかりが増えていく可能性もあります。

「もっと働く」という打ち手も同様です。オーナー自身の時間や労力は、帳簿上の数字にはなかなか載せにくいものです。粗利が見えないまま「自分が現場に入る時間を増やす」「休みを削る」といった手を打つことは、本来は利益として残すべき自分の時間を、数字に載せないまま投資し続けることになりかねません(オーナー自身の時間の考え方についてはこちらの記事で詳しく解説しています)。

「値段を上げる」という打ち手も、売上だけを見て決められるように見えるかもしれません。しかし、どのメニューから上げるのかは、粗利の数字が出て初めて順番がつきます。いくら上げれば足りるのかは、そこに家賃や人件費といった固定費を重ねて決めます。どちらも、粗利が出ていないと始まりません。粗利の数字が見えていなければ、感覚で順番を決めてしまい、本来もっと残せるはずのメニューを安いまま据え置いたままになるリスクがあります。 つまり、値上げという打ち手も、「持てているようで、実は持てていない」状態と言えるのです。具体的な値上げの進め方については、こちらの記事こちらの記事で扱っています。

その打ち手は、何を見れば決められるか 売上だけを見て決められる もっと集客する もっと働く 値段を上げる やると決めることはできる。 いくら上げるかの根拠は出ない 粗利がないと決められない 1人来てもらうのにいくらまで払えるか どのメニューから値段を見直すか どの仕入れと外注を見直すか 何時間分の人を雇えるか 数字が出るまで、選択肢として浮かんでこない 粗利が見えないと、打ち手は左側に寄っていきます

粗利は「店全体の率」ではなく「1時間あたり」で見ると順位が変わる

粗利は、漠然と「店全体の原価率」として捉えられがちです。しかし、店全体の原価率だけでは、どのメニューがどれだけのお金を残しているのか、具体的にどう貢献しているのかは見えてきません。

ここで、粗利を「1時間あたりいくら残っているか」という視点で見てみましょう。これは統計に基づく数字ではなく、数字の見方を示すための例です。

メニュー 売上 材料費 粗利 所要時間 1時間あたりの粗利
A:カット 5,000円 200円 4,800円 60分 4,800円
B:カット+カラー 12,000円 1,800円 10,200円 150分 4,080円

この例では、メニューB(カット+カラー)の客単価はメニューA(カット)の2.4倍です。しかし、1時間あたりの粗利で見ると、メニューA(4,800円)のほうがメニューB(4,080円)よりも高い結果になります。

客単価の順位と、1時間あたりの粗利の順位は一致しない ※数字の見方を示すための例です。統計ではありません A:カット 売上 5,000円 − 材料 200円 / 60分 1時間あたりの粗利 4,800円 粗利 4,800円 B:カット+カラー 売上 12,000円 − 材料 1,800円 / 150分 1時間あたりの粗利 4,080円 粗利 10,200円 売上は2.4倍。ただし放置時間の使い方しだいで数字は変わります

実際には、カラーの放置時間に別の施術を入れている店も多いでしょう。その場合、同じ150分でも1時間あたりの数字は変わってきます。だからこそ、この「1時間あたりの粗利」の数字は、オーナーがご自身の店の回し方からしか出すことができない、とても重要な数字なのです。

もちろん、1時間あたりの粗利が低いメニューが「悪い」というわけではありません。そのメニューがお客様の来店周期を短くしたり、次のメニューへの導入になったりするなど、別の形で貢献している可能性もあります。ここで重要なのは、メニューに優劣をつけることではなく、「1時間あたりの粗利」という新しい判断材料が1つ増えるという点です。

なお、これは美容室に限った話ではありません。ネイルサロンでも、まつげやまゆげのサロンでも、材料と時間を使って仕事をしている以上、同じ見方が使えます。

どのメニューをいくらに設定するか、原価をどう組むかは、店の立地・客層・技術によって変わります。そのため、この記事では踏み込みません。

1人サロン・個人事業主が見落としがちな1つ——自分の給料が数字に入っていない

厚生労働省が2025年10月21日に公表した「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」によると、美容所は全国に277,752施設あり、従業美容師は588,291人です。単純に平均すると、1施設あたり2.1人の美容師がいる計算になります。なお、これは美容師の人数で、受付やアシスタントは含まれていません。1施設あたり2.1人という平均は、分布そのものを示すものではありません。ただ、平均がこの水準にとどまっている以上、大型店だけで全体が構成されていないことは読み取れます。また、この統計は保健所への届出をもとにしたもので、他の統計とは数え方が異なります。

特に個人事業主の場合、自分自身への給料は「経費」として計上できず、事業の利益がそのまま自分の取り分になります(法人の場合は役員報酬として経費に入ります)。※税務上の取り扱いは事業形態によって変わるため、必ず顧問税理士にご確認ください。そのため、粗利がそのまま自分の利益に見えてしまい、「粗利を出す」という発想に至りにくい傾向があります。

しかし、自分の時間を1時間いくらで働いていると想定するかを決めない限り、前章で見た「1時間あたりの粗利」という数字を正確に出すことはできません。自分の働きを正しく評価し、経営判断に生かすためにも、この視点は不可欠です。

粗利が言えると、打ち手はここまで増える

粗利が言えないときと、粗利が言えるときとでは、店が取れる打ち手の数が大きく変わってきます。

粗利が言えないとき 粗利が言えるとき
もっと集客する メニューの出し方を変える
もっと働く 値上げの範囲と順番を決める
仕入れと外注を見直す
採用できるかと何時間分かを決める
広告に出せる上限を決める
営業時間の組み替えを決める

つまり、打ち手の数は、経営者の性格でも根性でもなく、見えている数字の細かさで決まります。

ただし、数字が出れば全て解決するというわけではありません。数字が出た後には「その数字が良いのか悪いのか」「どうすれば改善できるのか」といった分析と、次の打ち手を考える段が必ず必要になります。店ごとの設計は異なるため、ここではその具体的な方法については触れません。

まずは、1か月を「時間で割ってみる」

では、「1時間あたりの粗利」を出すにはどうすればよいでしょうか。 まずは、次の3つの数字を書き出してみましょう。

  1. 1か月のレジ売上
  2. その月に薬剤や材料へ支払った金額
  3. その月に、自分とスタッフが店にいた合計時間

1と2の集計の仕方や、お金の漏れの見つけ方はこちらの記事で詳しく扱っています。

重要なのは3つめです。たとえば自分が月に150時間、スタッフが1人いて月に100時間働いているなら、合計250時間が店にいた時間です。

1のレジ売上から2の材料費を引けば、粗利が出ます。その粗利を3の合計時間で割れば、「店にいた1時間あたり、いくら残っているか」が出ます。電卓だけで足ります。※これは待機や掃除の時間も含めた店全体の数字です。先ほどのメニュー別の例(施術時間だけで割ったもの)とは分母が違うので、直接は比べられません。

この数字を出した時、「この数字が良いのか悪いのか分からない」と感じたら、それが次の段階に進むサインです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 粗利と利益はどう違うのですか?

粗利は、売上から材料費など「変動費」を引いた残りのことです。一般的に「利益」と呼ばれるものには、粗利からさらに家賃や人件費といった「固定費」を引いた営業利益や、そこから税金などを引いた純利益など、いくつかの種類があります。この記事で扱っているのは、売上から材料費だけを引いた「粗利」です。「売上に応じて増える費用(変動費)」と「売上に関係なく毎月かかる費用(固定費)」の分け方は、中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも同じ考え方で説明されています(記事末尾の一次情報を参照)。

Q2. 美容室の原価率は何%が正解ですか?

美容室に「何%が正解」という共通の原価率はありません。メニュー構成や仕入れ条件、お店のコンセプトによって大きく異なるためです。たとえば、カラーやパーマの比率が高い店と、カット専門の店では、当然ながら材料費の割合は変わってきます。そのため、一般的な目安の数字を追いかけるよりも、この記事で提案した「1時間あたりいくら残るか」という自店の数字を算出し、それを判断材料にすることが、具体的な打ち手を考える上で役立つでしょう。

Q3. 1人サロンでも粗利を出す意味はありますか?

大いに意味があります。むしろ1人サロンこそ粗利の把握が重要です。1人サロンでは、オーナー自身の給料が経費として計上されないため、粗利がそのまま利益に見えてしまいがちです。しかし、自分の時間を「1時間あたりいくら」と換算することで、自分の時間をタダで足していることに気づけます。これにより、価格設定や営業時間の見直しを、感覚ではなく数字で決められるようになります。

Q4. 集客を増やすのは間違いなのですか?

集客を増やすこと自体は決して間違いではありません。むしろ、成長のために必要な打ち手です。問題は、粗利の数字が見えていないために「それしか」選択肢がない状態になってしまうことです。粗利が把握できていれば、「1人のお客様を獲得するために、いくらまで広告費をかけられるか」という上限が明確になり、かけたお金がどれだけ利益として返ってくるかを見ながら、集客を組み立てられるようになります。集客が悪いのではなく、順番の話です。

Q5. 「売上はあるのにお金が残らない」という話と同じですか?

近しいテーマですが、完全に同じではありません。「売上はあるのにお金が残らない」という悩みは、売上と費用全体のバランスが崩れている状況を指し、その原因の特定と確認手順はこちらの記事で詳しく扱っています。この記事では、粗利という特定の数字が見えていないことで、経営者が打てる手の選択肢が極端に減ってしまう、という側面に焦点を当てています。

参考(一次情報)

アーキブルでは、サロン専門の無料の経営診断を行っています。今回、オーナー自身で算出してみた「1時間あたりいくら残っているか」という数字が、良いのか悪いのか分からないと感じたら、次にどの打ち手が取れるのかを一緒に考える場として、ぜひご活用ください。 無料の経営診断はこちら

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